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社会・文化

《日本のサンクチュアリ》精神鑑定の世界

これでも日本は法治国家か

2010年3月号

 刑法は第三十九条で次のように定めている。
・心神喪失者の行為は、罰しない。
・心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
 いわゆる「刑事責任能力」に関する条文の一つだ。あえて説明すると、刑事事件を引き起こしても、精神的問題を抱えており犯行時に事の理非を弁識する能力が欠如していたと判断されれば無罪となる。その能力が著しく低下していたと判断されるなら、刑は減軽されねばならない。これは、行為者への責任非難ができない場合は刑罰を科すべきではないという近代刑法の大原則に基づく規定だ。
 ここで事理弁識能力の有無、または低下を判断する基準となるのはもちろん、精神科医など専門家による「精神鑑定」だ。刑事事件に関して行われる場合は特に「司法精神鑑定」とも呼ばれる。
 しかし、日本の刑事司法において刑法第三十九条の規定は長らく、歪みきった状況に置かれ続けてきた。
 多くの事件で鑑定に携わった精神科医の一人が言う。
「そもそも『刑事責任能力』にせよ『心神喪失』にせよ、あくまでも法的概念で、医学的な概念ではない。だから刑事司法の場で・・・