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連載

皇室の風 連載19

光厳帝に光を当てた 岩佐美代子
岩井 克己

2010年3月号

 北朝初代の光厳天皇は、叔父の花園天皇から帝王学を学び、有名な『誡太子書』を授けられた。しかし南北朝の争乱に翻弄され、数々の流血や虜囚を体験。深く禅宗に帰依して、晩年は戦乱の犠牲者たちの菩提を弔う旅を重ね一僧侶として生涯を閉じた。
 歴代から抹消され忘れられかけていた光厳の生きざまや歌を、深い共感とともに掘り起こした『光厳院御集全釈』の著者・岩佐美代子は、時に皇室に関し胸を衝くような寸言を記していた。紀宮清子内親王の婚約の取材の過程で『内親王ものがたり』を紐解いてみて、宮中という伝統世界への洞察力に驚き、著者の出自、背景を調べてみた。
 一九二六年、民法学者・穂積重遠の次女として生まれた。父方の祖父は法学者・穂積陳重、同祖母は渋沢栄一長女。母方の祖父は日露戦争の満州軍総参謀長児玉源太郎。美代子は四歳の時から昭和天皇の長女照宮成子内親王の「お相手」の一人として、学習院や皇居内の呉竹寮(内親王御殿)、葉山御用邸などで共に過ごし、四三年に成子内親王が東久邇宮盛厚王に嫁すまで仕えた。戦前・戦中の宮中の空気に接して育ち、成子内親王が六一年に早世してからも愛慕は変わらないようだ・・・