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連載

還りのいのち 還りの医療 自然死への道を求めて 連載 41

無縁社会のなかの死
米沢 慧(評論家)

2010年3月号

 看取るひとがいなくて一人きりで死ぬのを孤独死という。だが、先ごろ、家族や会社等から孤立している単身者の死を「無縁死」と表現したテレビ番組(NHK・ドキュメント特集『無縁社会』一月三十一日)をみた。
 凍死や餓死をふくめ無縁死の数は年間ざっと三万二千人、そのうち約千人が身元不明者(行旅死亡人)。自宅の居間で死亡したのに身元不詳というケースもあるという。年間自殺者三万人の時代の暗さと符合しているようにみえる。また同時に、他者との交流がない無縁社会だからこそ晩年の生き方や還りのいのちの居場所を手探りする単身者の覚悟とその息づかいが切ない。
 現代の自然死の流れは家族の中の死(在宅死)から病院・施設のなかの死へという道筋にあったが、無縁死はそこからさらに閉め出された消費社会の自然死ということになろうか。
「無縁死」ということばからすぐに思い出した出来事がある。十四年前(一九九六年)の四月、東京の都心(豊島区池袋)アパートで七十七歳の母親と病気で寝たきりの四十一歳息子の文字通りの無縁死である。死後二十日以上経過して発見された二人の死因は栄養失調、餓死。息子は寝巻す・・・