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南アに過激な「黒人民族主義」

W杯後に「政治危機」へ

2010年5月号

 二月に日本で公開されたクリント・イーストウッド監督作品の映画「インビクタス・負けざる者たち」は、一九九五年のラグビーW杯南アフリカ大会を題材としていた。長年アパルトヘイトが続いた南アでは九四年の民主化後も社会の人種的分断が深刻で、歴史的にサッカーは黒人、ラグビーは白人のスポーツだった。だが、初の黒人大統領マンデラ氏はラグビー選手を激励し、南アチームは優勝する。映画では、W杯を利用して人種間の「融和」を進めるマンデラ氏の姿が描かれている。
 その南アで六月、今度はサッカーW杯が開催される。ラグビーW杯に込められた狙いは「融和」だったが、アフリカ初のサッカーW杯には「アフリカ人の主体性の回復」という狙いが込められている、と筆者は見る。南アの開催能力に疑問が示されるたびに、W杯を誘致したムベキ大統領(当時)は「史上最高の大会にしてみせる」と色をなして反論してきた。その言辞には、オリンピック以上に世界の注目を浴びるW杯を切り盛りし、「被支配者」「援助対象地」というアフリカの受動的地位の返上を試みる意思が感じられた。

「ボーアを殺せ」と歌う指導者

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