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経済

《クローズアップ》江上 剛(日本振興銀行社長)

火中の栗を拾った「小説家」

2010年8月号

 韓流ドラマもびっくりというほど劇的な人事だった。小泉政権下で、竹中平蔵金融担当大臣と意気投合して金融検査を武器に不良債権処理マンとしてスターダムにのし上がった木村剛。その彼が、金融検査を忌避した容疑で逮捕され、先行きもわからなくなった日本振興銀行を銀行マン出身の作家、江上剛が引き受けることになった。
 江上の周囲の人々はまず間違いなく全員が反対したことだろう。まっとうなビジネスマンであれば、日本振興銀行というビジネスモデルが当初からいかがわしく、うまくいくはずがないとわかっているからだ。
 大銀行の貸しはがしで困っている中小企業を支援しようという元来の志はいいとしても、困っている中小企業に貸し込んで元利ともども回収でき、銀行として経営が成り立つと思う人間がいたら能天気そのものだ。収益をあげる必要がまったくなく、学者然として口をへの字に結んでいれば総裁になれる日本銀行出身の木村らしい夢想であり、邪心だった。
 江上という人間はまったく反対の人生を歩んできた。第一勧業銀行という大組織で、人の生き血を吸って偉くなった人間にかしずき、貸し出す時は笑顔だが、融資先・・・