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連載

西風 352

高齢者の窮迫と胴欲
八木亜夫

2010年9月号

 


 百歳以上で所在不明の高齢者を、全国の自治体が調査したところ、あっというまに三百人を超えた。実際は死亡しているのに、住民基本台帳からの職権消除を怠ったケースが多く、役所のタテ割り行政や、ことなかれ主義が原因とみられるが、日本の長寿統計はアテにならないと、外国のメディアからも揶揄される始末。関西でも大阪や神戸などの都市部に集中した。かつて阪神・淡路大震災で、宛先が消滅した郵便物を、郵便局員が手間と時間をかけて転居先を追求、ついに相手を見つけて届けたことにくらべると、神戸市の対応はズサンというほかない。
 老人が自宅で「即身成仏」を決行、遺族が遺体と三十年も同居していた特異な例もあるが、家族との軋轢などに苦悩した高齢者が、みずから家を離れたケースも多いのだろう。大都市の路上生活者の中には、家族との縁を切り、身元を隠しつづけている高齢者もいる。年々ふえつづける行旅死亡人、いわゆる「行き倒れ」の記録の中にも、身元不明の高齢者が多い。窮迫した末に、緩慢な自裁を選択せざるを得なかった、多数の「窮老蒸発」の現実には胸が痛む。
 話かわ・・・