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連載

本に遇う 連載129   

物語にするのはよせ
河谷史夫

2010年9月号

 参院選の惨敗について、首相菅直人は、「私が消費増税のことを不用意に持ち出し、それが唐突な感じを選挙民に与えたことが敗因だった」と、一つ覚えの釈明を四方八方に繰り返していた。
 そういうことにしたいらしい。
 だがこれは、そういう「物語」を作ったというに過ぎない。
 国の財政逼迫がなまじでないことは誰もが知っている。いずれ消費増税は避けられまい。とはいえ、街頭演説でべらべらと増税を口にする菅の浮ついた様子に為政者としての資質を疑ったのである。言うことの中身の定まらなさは、夫子自身考えて、考えて、考え抜いたことでなく、さしずめ財務官僚に振りつけられたものと思わせた。
 とにかく言うこととやることが違う。こいつが民主党の弱点だ。去年の総選挙の「マニフェスト」も綻びだらけで、手をつけたのは、あの愚かな「子ども手当」のみだ。前任者が固執して自滅した「普天間」について菅は触れず、「沖縄どこ吹く風」の顔つきであった。国家戦略局構想はしぼみ、官僚を敵視したかと思えば、官側の言いなりに人事をする。「政治主導」の号令が片腹痛い。ただ虚仮威しの閣僚をつくっただけであ・・・