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安倍首相が地元で大盤振る舞い「お膝元」山口県で大型事業が続々

「国土強靭化」(防災目的の公共事業推進)を訴えた自民党の政権復帰で、疲弊する地方が公共事業復活に大きな期待を寄せる中で、早くも「国土強靭化バブル」とも呼べそうな大盤振る舞いの実態が明らかになりつつある。舞台は安倍晋三首相の「お膝元」、山口県だ。


 一月、下関市内での年頭の挨拶で中尾友昭市長は、地元選出(山口四区)の安倍首相発言を紹介した。首相は、「(自分が)総理大臣になったから(公共事業が増えて)下関は良くなりますよ」と強調、具体的事業として「山陰自動車道」(山口県下関市 - 鳥取市)と「第二関門橋」の建設を挙げ、「国交省OBの山本繁太郎知事が誕生したのだから必ずできます」と太鼓判を押したというのだ。


 下関市長の口を介して地元への利益誘導を約束した形だが、初めて首相になった二〇〇六年当時にも安倍氏は、父・晋太郎氏の生まれ故郷、長門市での支援集会で「山陰自動車道は必要でしょうし、インフラ整備、基礎的な基盤をつくっていくのも政治家の大きな使命」と推進論を公言している。この時は「体調不良」による辞任で実現に至らなかったが、首相に返り咲いた今、かつての地元支持者への「約束」を遅ればせながら実現しようと意気込んでいるようだ。


"安倍道路"に"安倍ブリッジ"


 すでに布石は打たれていた。昨年七月の山口県知事選で安倍氏自身が先頭に立って支援した山本候補は「山陰自動車道の全線開通」を公約に掲げている。県知事選告示直前の決起大会(七月七日)で安倍氏が「(経済成長のためには)建設国債発行と日銀買い取りで積極的な公共投資が必要」と訴えると、山本氏も「県内の産業の再起動には、港湾や道路のアクセスなど基本的な(インフラ)環境整備を最大限の努力で進めなければならない」と決意表明したのだ。


 しかし日本海側の過疎地域を通る山陰自動車道は費用対効果が低く、山口県内の全長百十五キロメートルのうち、開通区間は「萩・三隅道路」(長門市 - 萩市)のわずか十五キロにすぎない。安倍家の故郷・長門市が始点であることから"安倍道路"とも呼ばれる萩・三隅道路を走ると、残り八割以上の百キロで建設が進まなかった理由は一目瞭然。一帯は人口も交通量も少ない山間部だ。巨大な橋梁やトンネルが続くため、建設費は十五キロで七百九億円、一キロ当たり約四十七億円にも達する。建設費の割に経済効果があまりに乏しいのだ。


 ちなみに、安倍道路に隣接する「長門・俵山道路」(長門市)の着工も決まっているが、ここも山間部が建設予定地のため、この区間の事業費も五・五キロで二百四十億円、一キロ当たり約四十四億円にものぼる。「大雨で生活道路が通行止めになる」ことも建設理由に挙げられているが、その回数は〇一年からの十年間でわずか五回、二年に一回にすぎない。防災面を考慮したとしても費用対効果が高いとはとても言えない代物だ。


 安倍首相と山本知事の誕生で建設の機運が高まる山陰自動車道だが、全線開通となれば、未開通区間百キロを建設するために推定で約四千五百億円の税金が投入されることになる。安倍政権は補正予算(十三・一兆円)に、未整備の高規格幹線道路を建設するために「全国ミッシングリンクの整備」として六百二十三億円を盛り込んでいる。箇所付けはこれからだが、山本知事は山陰自動車道にも予算が付くのは確実と自信満々だ。


 山口県での強靭化バブルの事例はこればかりではない。湾口や海峡を橋やトンネルでつなぐ「海峡横断道路計画」の一つ、「第二関門橋」、通称"安倍ブリッジ"もある。一九八七年の第四次全国総合開発計画(四全総)で打ち出されたもので、全国で六本あることから「六大架橋」とも呼ばれる。事業費は橋梁だけで約二千億円、関連道路を入れると、約三千億円になるが、関門海峡にはすでに「関門橋」と「国道トンネル」で交通量に十分な余裕があり、三本目となる第二関門橋の必要性が乏しいことは今さらいうまでもあるまい。国会でも「無駄」と批判され、福田康夫政権時代の〇八年に冬柴鐵三国土交通大臣が調査を打ち切った経緯がある。


 しかし第二次安倍政権が発足した頃から、「地元の自民党議員が第二関門橋のことを口にし始め、打ち止めになったはずの事業が蘇りつつある」(下関市議)というのだ。安倍首相と山本知事が推進しようとする「山陰自動車道」と「第二関門橋」を合計すれば、山口県一県の二事業で実に七千億円以上の血税が投入される計算だ。


冷めた視線を向ける地元住民


 許し難いのは、安倍首相が地元での「失敗例」を直視せずに、公共事業のバラマキに走ろうとしていることだ。下関市にはかつて晋太郎氏が推進して具体化した「長州出島計画」なる大型公共事業があった。「大型船入港が可能な国際港」「八千人の雇用創出効果」という触れこみで、沖合に人工島を建設するというもので、七百五十五億円もの税金が投入された。だが、〇九年に供用開始された一部の岸壁への船舶入港は現在までにわずか五十九隻にすぎない。周辺海域は風が強く、税関などの受け入れ態勢も既存の下関港の方が優れており、民間船舶は敬遠しているためだ。


 利用価値がゼロに等しくても、「高速道路に十分間でアクセスできること」という国際港湾の条件を満たすべく、東側の中国自動車道の下関インターチェンジに直結する巨大道路は完成済み。市中心部の南側から延びる「下関北バイパス」(六・八キロ)の建設も進んでいるが、この事業費は七百八十億円、一キロ当たり百十五億円と桁違いの額だ。


 時代錯誤も甚だしい公共事業推進に対しては、「地権者や建設業者や地域ボスの票をもらうための手段」「地元の政治基盤を強化、"安倍王国"を作るための選挙対策」などと地元では囁かれている。山口県では最大都市の下関市長選(三月十日投開票)、四月には参院補選、七月には参院選挙と重要な選挙が続く。その下関市長選には西本健治郎市議、参院補選にも人工島建設を進めた江島潔・前市長という地元では有名な「安倍派」人脈が立候補する予定だ。


 だが、皮肉にも安倍首相への評価は中央と下関市で大きなギャップがある。全国的には高い支持率を誇る安倍氏だが、旧態依然とした自民党的バラマキ手法を目の当たりにしてきた地元では反発も根強く、意外にも都市部ほど支持層は薄い。下関でも、先の人工島建設や道路建設に対して多くの市民が「無駄」「巨大すぎる」との冷めた視線を向けている。


 莫大な税金を投入して巨大な道路や港湾を整備したが、産業は育たずに人口減少を続ける―"バラマキ天国"山口県の姿こそ、強靭化バブルの果てなのかもしれない。

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