三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

日本の科学アラカルト7

中韓も注目し追い上げる日本が先頭走る「きのこ研究」

2011年3月号

 日本における「林業」全体の市場規模は約五千億円だ。林業において生産されるものを「林産物」というが、我々が通常考える「木材」はそのうち半分に過ぎない。のこりの半分は「特用林産物」と呼ばれるもので、そのうち約二千四百億円を「きのこ」が占める。日本人が口にするきのこは農産物ではなく、林産物に区別されるものなのだ。確かに、しいたけ、えのきだけ、しめじ、まつたけなど、きのこ類は日本人にきわめて好まれ、食卓に上ることが多い。
 きのこは「木の子」と表されることからもわかるように、秋になると木のそばに生える。この当然であるかのように見える自然の営みにはある重要な事実が隠されている。「きのこは地球上で唯一、木だけを栄養源として生きられる生物」なのである。言い換えると、きのこは、木の細胞壁(木質バイオマス)の主要構成要素であるセルロース、ヘミセルロースなどを分解し、自らの栄養として吸収し成長している。
 この、木質バイオマス分解能を持つきのこの酵素についての研究の有用性は高い。なぜなら、例えば木に含まれるセルロースは地上にもっとも多く存在する炭水化物であり、それを有効活用するために・・・