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WORLD

欧州で高まる「国境復活」の機運

極右台頭で「分裂」の危機

2011年9月号

 ヨーロッパを旅行したことがある者なら、「シェンゲン協定」を知らない者はいないだろう。パリからタリス(高速列車)でケルンに向かい、そこからローマ行きの夜行に乗ると、欧州五カ国を移動することになるにもかかわらず、この間一度も国境検査に出くわすことはない。これは、欧州諸国の域内国境検査撤廃を定めるシェンゲン協定の恩恵だ。このシェンゲン協定が、目下、欧州連合(EU)の激しい内輪揉めを惹き起こしており、「欧州統合」の精神に深刻な綻びをもたらそうとしているのだ。

国境検査を導入したデンマーク

 きっかけは、北アフリカの民主化革命だった。今春、チュニジアの政変により発生した難民が、自国のランペドゥーザ島に数千人単位で漂着したイタリアは、各国に難民の分担協力を依頼。ところが、これが各国に黙殺されたため、腹を立てたベルルスコーニ首相は、チュニジア難民をフランスに押し付けようとの魂胆から「大岡裁き」でシェンゲン・ビザを難民に発給。仏伊両国の非難の応酬により両国関係が一時的に緊張したのは周知の通りだ。  このイタリアによる措置は、シェンゲン・ビザの濫用となりかねないほか、難・・・