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社会・文化

なぜ自殺は減らないのか

死を礼賛する冷酷な社会

2011年10月号

九月十八日、遺書を残して失踪したJR北海道社長の遺体が、小樽沖で発見された。この事件について自殺に詳しい精神科医は、「不祥事企業のトップは死んで詫びるのが当然、という異常な考え方が、日本では今もまかり通っている」と説明する。   なぜ日本における自殺は多いのだろうか。どうして日本の自殺は、先進国で最も高率なのか。医学を含めた自然科学においては、数値で表される要因しか考慮されない。学者たちは、自殺者が多いのは、経済的な不況が原因だという。それは一面では正しい。しかしヨーロッパの国々の失業率は日本より高率にもかかわらず、自殺者の比率ははるかに小さい。   自然科学的な数値としては表れないが、自殺などの社会的病理現象には、国や地域に特有の社会的、文化的要因が強く影響している。

「雇用」が重要な要因

「日本にはヨーロッパ流の『社会』と呼べるものはなく、存在しているのは『世間』である」   こう主張したのは、元一橋大学長の阿部謹也氏であった。阿部氏によれば、日本人は常に世間の枠組みの中で生きており、世間から相手にされなくなることを恐れ、世間から・・・