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経済

トヨタが地元で大規模「環境破壊」

剥がれるエコ企業の「化けの皮」

2012年2月号公開

トヨタが地元で大規模「環境破壊」

「絶滅危惧種リスト『レッド・データ・ブック』に地球上に一千羽しかいないと書いてある『ミズゴイ』(サギの一種)が、豊田市と岡崎市の境の里山で三ペアも見つかった。それなのにトヨタ自動車は、こうした絶滅危惧種がいる自然豊かな里山を破壊し、巨大なテストコースと研究施設を作ろうとしている」

 こう怒りを露わにするのは、「二十一世紀の巨大開発を考える会」(岡崎市)会長の織田重己氏。織田氏らが問題にしているのは、現在トヨタ自動車が愛知県豊田市と岡崎市にまたがる広大な中山間地を舞台に、テストコース・実験棟・研究棟・厚生施設などを建設しようとしている巨大な開発事業のことである。

 一昨年に名古屋市で開かれた里山保全がテーマの「COP10(生物多様性条約締約国会議)」でも織田氏らは、同社の環境破壊事業を告発した。しかし、トヨタは巨大開発を断念するどころか、推進の姿勢を強めている。計画は当初に比べて若干規模を縮小したものの、それでも開発(買収)面積が六百五十二ヘクタール、山を削るなどの改変面積も二百七十ヘクタールに及ぶ。実に、東京ディズニーランドの五倍、東京ドームの五十八個分の広大な里山に、手がつけられることには変わりない。

 予定地一帯は、絶滅危惧種の野鳥のサシバや渡り鳥のミズゴイの営巣などが確認されるほか、動物で九十六種類、植物で二十七種類を育む絶滅危惧種の宝庫である。「エリア内で絶滅危惧種が減るのは確実だ」と織田氏の批判のトーンもあがる。

「欧州メーカーと戦うために」


 金看板「プリウス」に代表されるハイブリッドカーの販売で、世界的には「環境保全を真剣に考える社会貢献企業」をアピールする一方、お膝元の愛知県中部では里山破壊に邁進する。こうしたトヨタの姿勢をもって、「二枚舌」「エコ詐欺師」と批判する向きもある。果たしてこの事業に、地元の反対を押し切って強引に進めるほどの必然性があるのか。トヨタの担当者は「欧州メーカーと戦うには、二キロの直線コースと六キロの周回コースを持つテストコースが絶対に必要」と推進の理由を説明するが、見直し派はこう反論する。

「トヨタのテストコースは全国各地にあり、一回り大きなテストコースを作りたいのなら、愛知県企業庁が既に造成して売れ残っている田原地区の工業用地を活用すればいい。この代替案についてトヨタは『平坦部だと覗かれて秘密保持上問題』『海からの風があって不適切』などと難色を示しているが、田原地区にはすでに一回り小さいテストコースがあるし、塀を作って視界を遮れば、秘密保持もできる」

 しかも、この開発事業は愛知県企業庁がトヨタに代わって、土地の買収と造成を行い、造成後にトヨタが買い取る計画になっている。トヨタは造成までの間、一切「手を汚す」必要はなく、自然破壊の批判は県がまず受けることになる。通常の工業団地のように複数の企業が入るわけではないこの開発事業で、トヨタ一社のために県が先兵となって汗をかく。地元市議は、「まさにトヨタ王国・愛知を象徴する事業だ」と自嘲気味に話す。

 用地造成をめぐっては、愛知県と地権者との間の「トラブル」が訴訟沙汰にもなっている。東京在住の地権者A氏は、愛知県企業庁の委託を受けて上京した岡崎市役所の職員二名に土地売却を求められた。三度にわたる交渉の過程でA氏は、市職員側から「売ってもらえないのなら裁判に訴える」との高圧的な態度で「脅し文句」を繰り返し浴びせられ、売却を強要されたという。これに対し、A氏は「トヨタという私企業のために行政が動くのはおかしい」として売却を断固拒否。すると県企業庁が「買収済みの周辺の土地が有効活用されなくなる」として、予告通り裁判に訴えてきたのだ。

 A氏が弁護士なしで闘った一審は県側が勝訴したものの、二月二十九日から始まる控訴審ではA氏側に弁護士がつき、予定地内の絶滅危惧種を列挙しながら、トヨタの巨大開発の公益性を問う本格的な訴訟が始まる。

 この土地買収だが、本来なら「環境への影響が少ない」というアセスメントの結論が出てから行われるはずのものだ。だが、トヨタはアセスの途中にもかかわらず、「環境への影響は少ない」と一方的に断じ、見切り発車で買収交渉を開始したという。これをもって、トヨタのどこが「エコ企業」というのだろうか。

地元メディアは遠慮気味


 豊田市の北北西に位置する「八草共有林」(約二百ヘクタール)でも、同じような「トヨタのため」の開発計画が浮上しているという「情報」がある。

 ここでも開発の先兵役となっているのは地元自治体である。豊田市は八草共有林を産業用地として開発する「八草地区産業用地整備事業」を計画している。愛知県が瀬戸市や豊田市八草町で進めている「知の拠点整備」に合わせ、豊田市が隣接する八草地区に産業用地を新規に整備するというものだが、この計画の中核的な事業として取り沙汰されているのが、トヨタの大規模研究所なのである。

 同整備事業のために土地を売却しようとしている地元有力者の話によると、「トヨタが研究所を造るために十万坪の共有林を百億円で買うと持ちかけている」という。

 問題となっている八草共有林は、東に二十万坪、西に四十万坪にわたる約二百ヘクタールに及ぶ広大な土地である。貴重な湧き水が出るなどこの一帯の農業にとっては欠かせない水源林であり、集落全体の共有財産として管理・使用してきた貴重な環境資源である。地元では「八草共有林を守る会」を設立して、土地売却に強く反対する動きもある。

 この共有林の一部を「切り売り」させ、研究所を建設するというトヨタの計画は、反対派と推進派との間に深刻な対立を生んでおり、この対立がもととなって「八草共有林を守る会」の会員が昨年十二月、名古屋地方裁判所岡崎支部に裁判を起こす事態に発展している。

 しかし、こうした地元でのトヨタの傍若無人ぶりは、ほとんど知られていない。・帝王トヨタ・が君臨している中で、地元の報道機関や環境団体がトヨタ批判を控えているからだ。

 象徴的な「事件」が起こったのは二〇〇九年十月。「トヨタ自動車テストコース 希少鳥類の生息域保全皆で考える」と銘打った記事が大手新聞に掲載された。「考える会」が計画中止や公開協議を求める要望書をトヨタと愛知県に提出したことを伝える記事だったが、その後「記事を書いた記者がトヨタに呼び出されたという。それ以降、その大手紙にこの問題を批判的に取り上げた記事が出ることはなかった」(考える会会員)。

 トヨタの「圧力」は何もメディアばかりではない。愛知万博当時、里山破壊などを理由にトヨタ批判を強めていた地元の環境団体に属していたトヨタ社員が、環境団体のステッカーを車に貼っていたのを上司に目撃された直後、「見せしめ」として過酷な職場に異動になってしまったという。この「事件」が関係者に与えた衝撃は大きかった。

「地元の環境団体会員にはトヨタや関連企業の社員がほとんどなので、それ以来、会員維持のためにトヨタが進めることに反対することはタブーとなってしまった」(環境団体関係者)

「すべての道はトヨタに通ず」


 これら一連の開発計画には、その一環として周辺道路などの大規模なインフラ整備など付随事業も組み込まれている。

 先の岡崎市のテストコース建設予定地の近くには、新東名高速道路(第二東名)が建設中で巨大な橋梁が立ち並んでいたが、その高速道路の「岡崎サービスエリア(仮称)」とトヨタの研究施設を結ぶアクセス道路が建設されると見られている。そうなれば、トヨタの敷地から高速道路は十分程度で結ばれることになる。

 また予定地内を縦断する道は、部外者の侵入を防ぐという名目で、一部、橋梁になる予定だという。トヨタ一社の秘密保持のために、である。造成費自体(約一千億円)はトヨタが拠出するが、アクセス道路や橋梁化などの整備費は、もちろん国や県や市の負担となる。愛知万博でトヨタ周辺のインフラ整備は一気に進んだが、今回も当時の規模を超える里山開発を進めることで、インフラ整備ラッシュを再現しようとしているのだ。

 地元関係者は、こうしたインフラ開発のあり方を、「すべての道はトヨタに通ず」と斬って捨ててみせた。それもそのはずだ。かつて、愛知万博のために建設された、日本初のリニアモーターカーの常設実用路線=愛知高速交通東部丘陵線、通称リニモ。「トヨタのための環境博」(地元関係者)の目玉として約一千億円が投じられたが、そのリニモもいまや閑古鳥が鳴き、毎日赤字を垂れ流し続ける「お荷物」路線と化している。

「愛知万博の前後で愛知県の債務は急増。税金を食い物にしたトヨタだけが潤った形」(地元市議)と周囲のトヨタへの視線は冷めきっている。

 環境破壊を強行した揚げ句、この過ちをトヨタはもう一度繰り返そうというのでは、世界を代表する「エコ企業」もお里が知れるというものだ。


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