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連載

日本の科学アラカルト20

癌治療の現場で期待される「分子標的薬」の進歩

2012年4月号

 分子標的薬――。一九九〇年代に誕生し比較的歴史は浅いが、癌治療には欠かせない役割を既に担っている。

 それまでの癌治療における化学療法といえば、いわゆる細胞傷害性の「抗癌剤」を用いるものだった。抗癌剤治療の有効性の議論はここではしない。ただし、この薬の使用には一般に大きな副作用が伴うことは言うまでもないだろう。

 ある種の化学物質により、癌細胞を損傷させる効果を期待した抗癌剤の多くは、同時に健康な細胞をも傷つけ、わかりやすいところでは脱毛や吐き気などといった副作用が現れる。

 一方で分子標的薬は、癌細胞の特徴をターゲットとして「攻撃」することを目的としている。ただし、攻撃といっても実は、抗癌剤のように直接損傷させることだけが目的ではない。癌細胞の特定のタンパク質の働きを妨害することで、異常増殖を防ぐものも多い。

 分子標的薬は、分子生物学の進歩によって誕生した。それまでは「細胞レベル」で行われていた研究が、その細胞を構成する遺伝子や、それを構成するタンパク質といった「分子レベル」にアプローチするこ・・・