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連載

日本の科学アラカルト21

あらゆる材料への可能性秘める高分子化合物研究

2012年5月号

 高分子化合物―一義的に分子量の大きい物質のことである。身近なところでは、「化繊」と称されるものも高分子化合物の一種だ。米デュポン社が世界初の合成繊維「ナイロン」を開発したのが一九三五年。そして三九年、京都帝国大学(当時)の桜田一郎博士らが、開発した吸湿性を持つ熱に強い素材が「ビニロン」だ。戦後成長期における重化学工業が果たした役割についてはいまさら言うまでもないが、世界で二番目の合成繊維を作った日本との馴染みは深い。

 そして、この分野における進歩はいまだ止まっていない。あらゆる「材料」としての可能性を秘める研究が日々進められている。

 高分子化合物とは基本的に単位分子が鎖のように結合(重合)した「ポリマー(重合体)」だ。前述したような「繊維」や「プラスチック」といった固体の物質が想像しやすい。しかし、ポリマーには固体でも液体でもない「ゲル状」のものも多数存在する。

 東京大学大学院の相田卓三教授は、ゲル状ポリマーの研究を続けている一人だ。同教授らは、強い力を加えても元に戻る素材を開発した。名前は「アクアマテリアル」と・・・