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社会・文化

「江戸」に見る夏の過ごし方

「気分」から涼を得る庶民の智恵

2012年8月号

 日本の夏が高温多湿で暑いのは、今に始まったことではないが、エアコンが普及してからというもの、夏でも上着を着て過ごすことができるようになった。しかし、東日本大震災で福島第一原発が甚大な被害を受けたことを契機に、我々はできるだけ電力に依存しない夏の避暑法を考えなければならない段階に来たようだ。  電力に依存しない避暑法ならば、もともと電力のない江戸時代の智恵に学ぶことができる。

熱い甘酒による発汗で涼む風習

 当時、世界最大の百万人都市であった江戸。その大半が現在の中央区、港区一帯に集中していた当時の住環境を考えると、想像を絶する人口密集都市である。すでに核家族化が進んでいた江戸では、六~八畳の長屋暮らしが一般的だった。そこに家族六~七人が住まうというのが普通の姿であり、物理的な気温以上に、その夏は過酷なものだったことは想像に難くない。それゆえに、「涼」を求める江戸市民の智恵は進んでおり、一種涙ぐましいものまである。  例えば、江戸時代後期の戯作者、柳亭種彦の『偐紫田舎源氏』の挿絵には、六枚のうちわを軸につけ、ハンドルで回す人力扇風機が・・・