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連載

皇室の風51

ひとしなみにかける言葉の力
岩井克己

2012年11月号

 美智子皇后は七十八歳になった。

 皇太子妃時代から長年取材してきた目には、ここ数年の皇后の言動に微妙な変化が訪れているように感じられてならない。

 昔の言動には、時にどことなく糸を張り詰めたような緊張感が漂い、発する言葉にも精妙な内省の響きが感じられた。公的立場と近代的個我の裂け目から発光する文学的・哲学的な気配と言っていいかもしれない。

 それが結婚五十年の節目を越え、老いの影に向き合う中、生きとし生けるものの命の儚さを見せつけられた東日本大震災の発生。加えて天皇の重病にも直面する過程で、皇后の言葉にも次第に個我を超越した率直・簡明な情緒と自然なやわらかさが加わってきた気がするのである。

 大震災発災間もない昨年三月十六日、天皇が発したビデオメッセージは、人々に改めて皇室の存在を強く意識させることになった。原発事故への言及も含むメッセージ作成や録画撮りなど、デリケートで難しい作業だったろう。

 その陰に皇后の扶けがあったと天皇が深く感謝していると聞いた。しかし、メッセージの・・・