三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

社会・文化

消えかかる「海女文化」

三重南部の多数は済州島出身

2013年3月号

 通訳の韓国人女性は慌てた。昨年十一月末、東京・虎ノ門で開かれた海女振興協議会・鳥羽商工会議所主催の「海女文化フォーラム」での一幕だ。 「済州海女の歴史がいつから始まったのかについては確実な証拠はない」―。済州海女文化保存委員の左恵景氏は確かにそう発表するはずだった。配布された講演概要にもそう書かれてあった。  だが、講演が始まるや内容は急遽差し替わり、延々と古文書の講釈が始まった。耽羅や朝鮮王朝の時代から、いかに韓国では海女が活躍していたかと……。その直前になされた日本人研究者による「海女の日本史」なる講演がいたく彼女を刺激したようだ。平城京木簡や万葉集に登場する海女にまつわる話は聴衆の多くを魅了したが、同時に彼女の愛国スイッチまで入れてしまったのだ。  海女の「聖地」はどこか―。なにやら「真贋論争」に発展しそうな不穏な空気が会場を支配した。

海女は母系社会の名残

現在、日本には二千百七十四人(二〇一〇年)の海女がいる。地域的には三重県、石川県、千葉県、静岡県の順に多い。韓国は済州島だけで五千九十五人(一一年)だ。世界的に・・・