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連載

本に遇う 連載 161

持続する怒り
河谷史夫

2013年5月号

 何はともあれ家内安全が専一であるからして、家内に付き合って韓国ドラマ『トンイ』を見る。

「賤民」の出のトンイが艱難辛苦を越えて王の側室にまで上がるという出世物語だが、子どものころ、非業の死を遂げる父親から『論語』を学んだり、女官の定期試験の問題が『中庸』から出されたりするシーンがあった。

 わたしの貧しい書棚にも『論語』があって、ときに引き出す。いい文句が多い。ことに身に沁みるのは「一以って之を貫く」である。

「里仁第四」で、孔子から「吾が道は一以って之を貫く」と言われた曾子は、「はい」とだけ応じる。先生が立ち去ったあと、他の弟子がどういう意味ですかと尋ねた。曾子は答えた。「夫子の道は、忠恕のみ」。自己への忠実と他者への思いやり、これが先生の道である。

 同じ文言は「衛霊公第十五」にもう一回出て来る。こんどは子貢に言った。「お前は私を、いろいろ学問をして、それをよく覚えている物知りだと考えるか」「そう考えます。違いますか」。孔子の返答は「非なり。予は一以って之を貫く」。ちがう、そうではない。私は一・・・