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経済

ドコモのiPhone導入が秒読み

「機種選別」に隠された「深謀遠慮」

2013年7月号公開

「日本メーカーのスマートフォンをもっと取り扱ってほしい」―。

 六月十八日に開催されたNTTドコモの株主総会で株主から質問が飛んだ。「国内海外問わずに(端末は)公平に調達しております。機種の絞り込みはしますが、メーカーを選別しているわけではありません」。ドコモ側はこう説明した。

 発端はドコモが五月十五日に開いたスマートフォンの二〇一三年夏モデルの発表会。それは、これまでの同社の販売戦略に対する世間の常識を覆すものだった。ドコモの加藤薫社長は壇上に立って右手でVサインを示し、「これがドコモのツートップです」と公言した。

「ツートップ」に指名されたスマートフォンは韓国サムスン電子製の「GALAXY S4 SC―04E」とソニー製の「Xperia A SO―04E」。「どのスマホを買うか決めかねているユーザーにおすすめできるのがこの二機種。あわせて百万台の販売を目指す」(加藤社長)と高らかに宣言した。

 だが実は、この大胆な「路線転換」にこそ、ドコモの「深謀遠慮」が隠されていることは知られていない。


アップルへの大きな「譲歩」の道

 毎年二回開かれる新機種発表会で、ドコモが披露する携帯電話は十~二十数機種に上る。総花的な印象を防ぐために、特定のメーカーのいくつかのモデルを前面に出すことはあったが、最後の機種まで必ず一定の時間を割いて説明するのがドコモの発表会の特徴だった。

 だが、今回はそんな牧歌的な風景は見られなかった。前述の二機種については発表会で前面に押し出すだけでなく、販売政策でも割引率を高めるなど明確な選別を行った。名実ともに他の機種とは差を設ける「一軍扱い」をしたのだ。

 加藤社長によると、従来型携帯電話からスマートフォンに初めて移行する場合や、ドコモの長期割引を適用すると、「結果的に端末の実質価格は五千円程度になる」として、二機種の購入を最前線に出して勧めた。長くドコモから携帯電話を出してきたNECやシャープ、パナソニックなどはこれらの割引対象にはならない「二軍以下」の扱いということになる。

 ドコモは四月、再び加入者減少の危機に陥った。米アップルの「iPhone」から独り「圏外」にあるドコモは苦戦が続いており、ソフトバンクモバイルの純増(新規契約から解約を引いた数)数が二十六万四千四百件、KDDI(au)が二十万九千五百件だったのに対し、一千三百件と水面ぎりぎりの低空飛行だった。

「実際には関東甲信越を除く全地域で純減に陥っていた。携帯電話ではなく業務用機器に内蔵する法人向けの通信モジュールなどで、辛うじて表面上の純増を保っていたにすぎない」(業界関係者)という。

 ドコモは昨年十一月にも、過去最悪レベルとなるマイナス四万八百件という純減に陥ったばかり。度重なる危機感がドコモの背中を押した。

 これまでのドコモは、メーカーから機種をすべて買い取り、販売をコミットする代わりに、デザインや仕様、「docomo」のロゴの付け方にいたるまで端末開発に干渉し、潤沢なキャッシュフローからメーカーに対する開発補助金まで出していた。これにより強固なヒエラルキーに基づく携帯電話事業のピラミッドを形成してきたのだ。その前提となったのが、全メーカーへの「平等」な取り扱いだった。

 だがスマートフォンの登場によりすべては変わった。本来ならドコモはもっと早くメーカーの選別を進めるべきだったが「ドコモの調達のさじ加減一つが国内メーカーの命運を握るという責任感と驕り、また原則を崩すことによってドコモを頂点とするヒエラルキーが崩れることを恐れた」(前出関係者)。

 こうしたツートップ戦略が功を奏したか、五月の純増数では、ドコモは九万一千八百件まで盛り返した。発売から一週間の二機種の出荷数は過去最高レベルのスピードで伸びている。盟友サムスンと、唯一のグローバルブランドであるソニーを前面に出し、アップルに一矢報いたかに見える。だが、あるドコモ関係者は「ツートップ戦略は、iPhone対抗策ではなく、実はまったく逆だ」と指摘する。

 アップルはiPhoneを提供する世界中の携帯電話会社に対して、「iPhoneを他社製スマートフォンよりも優遇して販売すること」を条件としていることで知られる。その具体的な内訳は端的に言えば、「販売ノルマ」と「iPhone限定の特別割引料金の設定」だ。

 スマートフォンの世界販売ではすでに米グーグルのOSを搭載したアンドロイド陣営が台数でアップルのiOS端末を抜き去っている。アップルはますますこの条件に固執してくるはずだ。

 表向きiPhoneに対抗するためのツートップ戦略は実はiPhone迎え入れのための布石になっている。サムスンとソニーに他メーカーに比べて有利な割引料金を設定したことで、これまでアップルを迎え入れることのできない最大の難関だった「iPhone特別料金」の設定という、大きな「譲歩」の道が生まれたからだ。


「この秋にも」導入か

 問題はもう一つの難関である販売ノルマだ。アップルがiPhone販売キャリアに販売ノルマを課す、というのは当たり前のように言われてきたが、実際にはどれぐらいの条件なのか一切明らかになっていない。

 ドコモの加藤社長は今年一月に報道各社のインタビューで、「全スマートフォンのうちの二~三割(の販売ノルマ)なら応じられる」という趣旨の発言をした。これに対し、アップルに近い事情通は「これはおそらく加藤社長のブラフだ。二~三割ではアップルはのまないはず」と指摘する。この関係者が想定しているのが「アップルが要求しているのはアンドロイド端末とほぼ同数」という見立てだ。

 冒頭の株主総会でもそうだが、加藤社長をはじめ最近のドコモ幹部は、「スマートフォン機種の絞り込み」という発言を頻繁に繰り返している。「ユーザーに選びやすく」というのが表向きの理由だが、「広げすぎた国産スマートフォンのラインアップを絞り込んで、アップルの条件を達成できるように分母を少なくしている」(前出関係者)というのが事実のようだ。

 ドコモ社内では、国産メーカーを守ってきた旧来型の携帯電話事業をつかさどってきた部門の発言力が急速に弱まってきているという。国内メーカー擁護派とiPhone導入派の争いも今や大勢は決した。ドコモによる、「この秋にも」と噂される次期iPhoneの導入がいよいよ現実味を帯びてきた。