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連載

皇室の風 60

隼人の楯
岩井克己

2013年8月号

 隼人の地として知られる鹿児島の国分(現霧島市)をこのほど再訪した。

 十一年前、地元で医院を開業した友人を訪れた際、初めて周辺を案内してもらい、高台から望む錦江湾と桜島の景観の雄大さに息をのみ、北東にそびえる高千穂峰の秀麗さに強い印象を受けていた。

 以前から、天皇の葬送や大嘗祭の儀式に「隼人」が度々登場したことや日向・高千穂峰が記紀神話の天孫降臨の地とされたことが気になっていた。隼人に対する大和朝廷の統治拠点・国分に身を置くと、鬼界カルデラの大噴火が形成したダイナミックな自然と太古の歴史に様々な感慨が湧き起こる。

 一九六三年、平城宮跡の発掘調査で隼人の楯十六枚が見つかった。宮域南西角の井戸の側板に利用されていた楯は長さ百五十センチ、幅五十四センチの木製で、上下端に鋸歯文があり、中央に大きな渦巻二つを合わせたようなS字紋様が鮮やかな赤と黒、白で描かれていた。『延喜式』などによると、隼人は衛門府に属して宮廷の警護に奉仕し、儀式などで「吠声」(犬のような吠え声)をあげて辺りをはらい、隼人舞を舞った。海幸彦(隼人の祖)が海・・・