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連載

不運の名選手たち 58

湯浅直樹(アルペン・スキー選手)真っ直ぐ攻めてソチに散る
中村 計

2014年10月号

「死攻」

 スキー・アルペン競技の日本代表、湯浅直樹のモットーとしている造語だ。

 アルペンには「回転」「大回転」「スーパー大回転」「滑降」の四種目があり、湯浅は回転をもっとも得意としている。

 この造語を思いついたのは中学生のときだった。そのときすでに「将来はアルペンで世界一になってやる」と心に決めていた湯浅は、ある日、女子バレーの日本代表の試合に釘付けになった。

「日本は拾って、拾ってという試合をしていて、アナウンサーが何度も『死守しました!』って叫んでいた。魂を削りながらボールを拾ってるというか、まさに命がけで守っているというのが伝わってきたんです。でもアルペンにおいて守る場面はほとんどない。だから『守』を『攻』に変えたんです。自分は命を賭して攻めよう、と」

 回転は、右に左にとターンを繰り返しながら約六十本から六十五本設置されたポールの間をすり抜けてタイムを競う競技だ。

 湯浅のターン技術は世界でも三本の指に入ると言われている。普通の選手は徐々に膝・・・