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社会・文化

中国「古代青銅器」の魅力

世界に二つだけの「羊の酒器」の物語

2014年12月号

 来年の干支である羊―哺乳類偶蹄目ウシ科ヤギ亜科の一種で、雌雄ともに角のあるもの、また雌雄ともに角のないものなど、種類は多い。同じ亜科のヤギが木の皮なども食べるのと違い、羊は草だけを食べる。乾燥や寒冷といった厳しい自然環境の中でも穏やかな性質で群棲し、人を攻撃することなく、肉や毛、乳、皮のすべてを提供してくれる羊だからこそ、八千年以上も前から家畜化が始まっていたこともうなずける。羊と人間の関係の深さは、あらためて言うまでもない。  だが、日本人と実際の羊との歴史はとても浅い。もともと日本列島にいない動物であったこと、日本に運ばれても湿潤な気候に馴染まなかったこと、またその肉を食す文化が根付かなかったことなどが原因らしい。確かに、羊は、六世紀以降、何度か日本に来た記録があるものの、いずれも飼育は失敗に終わったようだ。日本に伝えられた十二支のなかの未は、絵画や彫刻を見るかぎり、顎ひげを生やしたヤギである。日本で本格的な羊の飼育が始められたのは、明治期に入ってからだ。  ところが、羊を見たことのない日本人であっても、重要な価値や概念の説明の場で、羊を使った漢字を頻繁に使ってきた。・・・