三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

WORLD

チュニジア博物館襲撃の「真犯人」

アラブの春の深刻な「副作用」

2015年4月号

 陽光輝く地中海の美しい海岸線と咲き誇るジャスミンの香り、そして穏やかで優しい人々。チュニジアは訪れる者の心を鷲拙みにする。そんな北アフリカのリゾートで起きた衝撃的な事件、バルドー博物館襲撃事件(執筆時点で日本人三人を含む二十三人死亡)の意味と本質を知るには、かつて国民をイスラムの因習とフランス植民地支配の両方から解放した初代大統領ブルギバ(在職一九五七~八七年)の果たした役割を想起する必要がある。  パリへの留学経験のあったブルギバが、独立間もない弱小国の未来を考えたとき、当時のチュニジアが著しい低開発状態から脱却し、欧米の生活水準に少しでも追いつくためには国民が一丸となって働かなければならないと確信したことは想像に難くない。そんな若き大統領にとって、夜明け前から日没まで、日中の飲食の一切を禁じるイスラム暦ラマダンの断食は、いかなる犠牲を払っても社会から葬り去りたい風習であった。遅れた国がさらに(断食のために)生産性を落としていては永遠に追いつけない―。断食の月が始まると、ブルギバは自らテレビカメラに向かい、用意したコップの水を飲み干して言った。「諸君、断食はやめて働こう」。 ・・・