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連載

日本の科学アラカルト 56

医療費抑制と産業に資する「超早期癌診断」の研究

2015年4月号

 日本人の死因トップはここ三十年以上、癌だ。戦後すぐは栄養状態もあり結核が主な死因だったが、その後脳血管疾患がトップになり、一九八一年以降、日本人は癌で死ぬ確率が最も高くなった。癌についての治療法は、手術、抗癌剤、放射線治療、重粒子線治療などさまざまあり、日々研究と進歩が重ねられている。唯一明らかなのは、どんな癌も早期発見、早期治療が有効であることだ。  先ごろ、九州大学の研究グループが「尿一滴」で癌診断ができる方法を発表し、多くのメディアで報じられた。寄生虫などと同じ「線虫」が尿にある癌由来成分のにおいに反応することを利用した診断方法で、短時間(一時間半)、低コスト(数百円)というこれまでよりも簡便な方法であることから期待が集まっている。  こうしたより簡便な癌診断が普及すれば、治療の効果も高いため、医療費の削減はもちろん、働き盛りの人間が死亡することによる経済損失をも回避することができる。癌診断の開発は治療と同等の意味があるといっても過言ではなく、さまざまな研究者が日夜取り組んでいる。  実用化に近づいているのは少量の血液で診断する方法だ。二〇一三年十月に、昭和大・・・