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社会・文化

ワイン界の帝王「引退」の衝撃

ボルドー市場で始まる「大混乱」

2015年5月号

 一人のワイン評論家の一線からの「引退」が二月、ウォール・ストリート・ジャーナル紙を含む英米のメディアで報じられた。どこがニュースなのか? その男がロバート・パーカーだと知れば、ワイン愛好家なら納得するかもしれない。「ワインの帝王」と呼ばれる六十七歳の米国人。百点方式で評価する「パーカー・ポイント」(PP)で、ワインの売れ行きや価格を左右してきた。  パーカーはロンドンで、自らが始めたニュースレター「ワイン・アドヴォケート」の同僚ライターと一緒に記者会見し、ボルドーのプリムール(先物取引)の試飲を、後進のニール・マーティンに引き継ぐことを発表した。自分は瓶詰めされた過去のボルドーなどの評価に回る。これが「引退」と報じられて驚きが走ったのは、パーカーの影響力はプリムールで最大に発揮されたからだ。  プリムールはボルドー独自の取引システム。有名シャトーが毎年三月末、前年に収穫したブドウで造ったワインの樽で熟成途中のサンプルを、世界中の買付業者やジャーナリストに試飲させて、先物で販売する。買い手には瓶詰めして市場に出る二年後より安く買える可能性があり、生産者はキャッシュフローがよ・・・