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社会・文化

粋人のための長良川「鵜飼」案内

「漆黒の闇」を味わう秋こそ本番

2015年9月号

 おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな―。松尾芭蕉が吟じた岐阜県・長良川の鵜飼は、約一千三百年の歴史があり、しかも時の権力者に愛され続けてきた。例えば、斎藤一族を滅ぼして美濃に入った織田信長は、鵜匠を鷹匠と同格に保護した。一五六八年夏、武田信玄の使者に鵜飼を見せて接待し鮎を土産にもたせたという記録がある。徳川家康は一六一五年、大坂夏の陣の帰りに岐阜に寄り、秀忠とともに鵜飼を見物した。その後は江戸幕府が直接保護し、一六六五年以降は尾張藩が保護した。  明治初期は、政府の保護がなくなり鵜匠の廃業が相次いだが、一八九〇年、鵜匠は宮内省の所属となり、現在も岐阜市長良の六人と関市小瀬の三人の鵜匠は国家公務員だ。身分は宮内庁式部職鵜匠ですべて世襲。鵜飼は他の地域でも行われているが、伝統と格式を維持しているのは唯一、長良川(長良と小瀬の二カ所)だけだ。ここでは、皇室へ献上するための国営漁が「本業」であり、観光鵜飼はいわば「副業」と言える。 チャップリンが感動した「幽玄」  岐阜市の観光鵜飼は、同市中心部の長良橋の上流約二キロで、毎年五月十一日から十月十五日まで、増水時など・・・