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社会・文化

「東大理Ⅰ」の凋落が 止まらない

優秀な人材は医学部に行く時代

2016年6月号

 東京大学工学部の地盤沈下が進んでいる。日本の産業界の低迷に呼応して、理系最高峰だった「東大理Ⅰ(理科一類、工学部の前期教養課程)」の魅力が急速に色あせているためだ。優秀な受験生を医学部に奪われて、次代を担う研究者や、日本企業の屋台骨を支えるような人材の確保が年々難しくなっている。
就職先が怪しくなった
 関西の有名進学校である灘高校の元教員は、「この十年で理Ⅰ受験希望者が激減した」と言う。灘高の理Ⅰ合格者は、二〇〇〇年代半ばまでは四十人台半ばだったが、過去十年は三十人台前半。法学部に進学する文科Ⅰ類(文Ⅰ)も減っている。一九八〇年の文Ⅰ合格者四十八人が今年は十四人だ。代わって医学部進学者が急増。今年は卒業生の四三%、九十五人が国公立の医学部に合格した。
 灘高以外の進学校でも事情は同じだ。かつての国立二期校、弘前大、山梨大、岐阜大などの医学部偏差値は、今や東大理Ⅰと同水準。それなら、医学部のほうがいいと、さらに理Ⅰ離れが進んでいく。
 それどころか、理Ⅰ出身学生の転出も目立つ。ある東大大学院工学系研究科修士課程・・・

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