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連載

本に遇う 連載197

名物記者と名物アナ
河谷史夫

2016年5月号

 時代がしみったれてくると、人間も小粒になるのか、これはと惹きつけられるような人物に出会うことはまれになってきた。
 むかしはどこの世界にも「名物」と言われるような人がいた。
 どこの大学だったか、研究に没頭するあまり日清戦争だったか日露戦争だったか、全然知らなかったという教授がいたそうである。
 新聞界で例えば朝日新聞の後藤基夫という記者は、政治家に食い込むことで他社の追随を許さず、「寝室組」と称された。
 派閥政治横行の時世、政治記者は派閥領袖にどう密着するかを競うのだが、親疎に応じて玄関組、応接間組、お茶の間組と段階がある。やっとお茶の間組になれたと得意顔の記者の前にぬっと、後藤が寝室から現れたというのだから驚いたろう。それも記者嫌いで有名な佐藤栄作の寝室だった。
 自由党結党に児玉誉士夫がカネを出した秘密を初め、政界の核心事を後藤は熟知していた。著書を残さないのを惜しんで、岩波書店の安江良介が鼎談仕掛けで知見を引き出そうとしたのが『戦後保守政治の軌跡』で、これは今もって戦後政治史の必読書である。
 その人間関係は多様で・・・