三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

WORLD

英国のタブーなき 「テロ対策」

人権より「国民総監視」を選ぶ国

2016年9月号

 欧州で陰惨なテロ事件が相次ぐ中、英国が近年、大規模テロの災厄を逃れている。国民の約十数人に一台という、驚異的な監視カメラ普及に加え、捜査機関に広範な権限が与えられているためだ。今秋には、政府の命令一つでスマートフォン情報を開示させる法律も成立の見込みで、対岸のフランスからは「なぜこんなに違うのか」という批判が巻き起こっている。
 問題の「調査権限法案」の審議は、英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票直前に重なり、反対論がかき消された。六月七日の下院採決(第三読会)では、賛成四百四十四票対反対六十九票の圧倒的多数で可決。与党・保守党に加え、野党・労働党議員の多くが賛成した。法案をまとめたのは、翌月に首相に就任するテリーザ・メイ内相だった。
 法案によれば、英政府は、暗号化されたスマホ情報の全開示を関係者(メーカーやインターネット業者など)に要求できる。しかも、特定のテロ容疑者だけの監視ではない。メーカーは「暗号解読の仕組み」まで、当局に事前開示しなければならないので、多数の国民のビッグデータが一括して監視対象下に置かれることになる。英国の盗聴・諜報機関「政府通信本・・・