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WORLD

多重危機を抱えた「アジアの海」

日本「国防力」に透ける限界

2016年10月号

 マニラの北西約百キロ。南シナ海に面したスービック湾がある。一九九二年まで米軍基地があった。その後、経済特区として栄えてきたが、二〇一五年にフィリピン軍が港湾施設の一部を借り受け、再び軍事拠点とする動きが進んでいる。
 その目標は、同港の西約二百二十キロの海上にある、スカボロー礁(中国名・黄岩島)だ。中国が実効支配を狙い、一二年には両国の船舶がにらみ合い、台風を理由にフィリピン側の船舶が引き揚げた後は中国船がずっと居座っている。
 スカボロー礁に新たな動きがあったのは九月初め。偵察飛行に出たフィリピン空軍が眼下の海上に集まった十隻ほどの中国籍船舶を発見した。尖閣諸島への領海侵犯を繰り返すことでも知られる中国海警局の公船もいたが、問題はより大型の一隻の船舶だった。四日に記者会見したフィリピンのピニョール農相は、大型船が浚渫用の船舶だと分析し、「中国は明らかに軍事基地になる建設活動を続けている」と批判した。
 今回の事件で衝撃を受けた関係国は多い。なぜか。軍事関係筋は語る。「これは、南シナ海の危機と東シナ海の危機が融合することを意味する」。

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