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連載

日本の科学アラカルト76

新エネルギー社会を支える 水素製造システムの開発

2016年12月号

 昨年は「水素社会元年」といわれ、水素ステーションの設置や、各自動車メーカーの燃料電池車が発表されるなど大々的に喧伝された。しかし、ご存じの通り燃料電池車の普及スピードは遅く、街なかで水素ステーションを目にすることはほとんどない。ただしこれは官業が一体となって繰り広げたキャンペーンが不発に終わっただけで、水素の燃料としての有望性が失われたわけではない。蓄電池を使った電気自動車が航続距離の伸び悩みで壁に当たっている限り、水素の可能性は消えない。
 水素を製造する方法として中学校の理科で学習するのが「電気分解」だ。電解質を加えた水に電圧をかけると、負極につないだカソード(陰極)から水素が発生し、正極につないだアノード(陽極)側で酸素を得ることができる。当然、使った電気的エネルギーと比較して、水素で蓄えられるエネルギーは小さくなるが、この効率を向上させることは喫緊の課題だ。
 その中で注目されているのが固体酸化物形電解セル(SOEC)を用いた高温水蒸気電解だ。これは液体の水ではなく水蒸気を電気分解するもので、電解に必要な電圧が低くなると同時に水蒸気の熱エネルギーも使える。・・・