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連載

誤審のスポーツ史26

五輪精神はもはや「幻想」
中村 計

2017年2月号

 二〇〇二年二月に開催された米ソルトレークシティー冬季五輪大会は、〇一年九月十一日に起きた同時多発テロの影響で、大会自体も、極端に右傾化していた。
 開会式からして、すでに異様な雰囲気に包まれていた。爆破事故によって破れた星条旗が掲げられ、開会宣言では、ブッシュ大統領はIOCが禁じていた愛国的な内容をためらいもなく盛り込んだ。
「偉大な国を代表して……」
 アメリカチームがまとうユニフォームに取り入れられた紺色は、「パトリオット(愛国者)ブルー」と名付けられた。
 アメリカはただでさえ、ホームアドバンテージに寛容な国だ。ホームチームに有利な判定が下されることを、スポーツの一部として理解している節さえある。その論理を、アメリカは世界最大のスポーツの祭典にも持ち込んだ。そうした尋常ならざる愛国心は、同大会において、いくつもの誤審を引き寄せた。
 その象徴とも言えるのが「オーノ事件」だった。長野五輪の金メダリストでもあり、韓国の国民的英雄でもあった金東聖が、男子ショートトラック千五百メートル決勝で、一度は優勝を確信・・・