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連載

美の艶話 16

むきだしの乳房と欲望
佐伯 順子

2017年4月号

 初秋のエーゲ海は深い青に輝いていた。「女神巡礼の旅」というアメリカの女性グループのギリシア・ツアーに参加し、アテネ、ギリシアの島々、デルフィと、ギリシアの女神ゆかりの地をまわった記憶は、今も鮮やかに甦る。
 キリスト教、特にプロテスタンティズムの影響のもとにあるアメリカ社会では、「父なる神」の存在感が大きく、女神や巫女という宗教的女性の存在はともすれば陰にかくれ、あるいは異教として排除されがちである。
 そんな状況に疑問を抱く一部のアメリカ女性たちは、ギリシアの女神信仰に憬れ、女神のルーツをたどる女神ツアーを定期的に企画しているのだ。キリスト教とは異なる宗教世界を求める女性たちのグループの見学地のなかに、この女神像があるクノッソスも重要な見学地として組み込まれていた。
 クノッソスは一般には、人身牛頭の怪物・ミノタウロスの神話で有名であるが、蛇を手にするこの女神の姿も、怪物さながらの迫力に満ち、豊満な胸をあらわに、目を見開いて正面を向く。乳房がはだけていても、男に媚びる様子はなく、これが私の胸よ、とでも言いたげに堂々としているので、不潔感は微塵もない。{・・・