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連載

本に遇う 連載208

敵討ちはしたけれど
河谷史夫

2017年4月号

「果たし合いに行く侍の気持ちだ」てなことを言って、やっと公式の場に出て来た石原慎太郎に、相も変わらぬ子どもっぽさを見た。
 この人は作家としても政治家としても、いつまでも新人というか素人というか、幼児性の抜けないまま老いていった感がある。
 築地から豊洲への市場移転決定の経緯が問題にされているとき、すべては部下の報告を「裁可」しただけで、専門家でない自分は「知らない」で通ると考えているところがプロでない。失敗を他人のせいにしたがる子どもと同断なのである。昔はそれでも、障子を突き破るくらいの勃起力はあったのに、年は取りたくないものだ。
 現都知事と元都知事は、今や敵同士に見える。小池百合子に対し「大年増の厚化粧」などと雑言を浴びせた石原は恨みを買っても仕方ない。日本人は芝居でも小説でも敵討ち物が大好きだから、大詰めやいかにと誰もが見ている。
 去年「仮名手本忠臣蔵」がかかった国立劇場で、先月は通し狂言「伊賀越道中双六」を観た。
 寛永十一(一六三四)年十一月七日、伊賀上野は鍵屋の辻で、荒木又右衛門が助太刀して妻の弟渡辺数馬の敵河合又五郎を・・・