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連載

をんな千一夜3

和宮親子内親王
江戸を守った丙午の嫁
石井妙子

2017年6月号

 江戸の人々は私たちよりもはるかに迷信深く、因習の中で生きていた。だからこそ、その縁組は庶民を驚かせるに十分だったのだろう。天皇の娘である皇女和宮が第十四代将軍の家茂に嫁すという。宮家や皇族女性の嫁入りはそれまでにもあったものの、皇女の先例はない。だが、庶民たちが打ち騒いだ理由は、それとはまた別のところにあった。皇女さまが「丙午の生まれ」だったからだ。
 いつからの俗信か、丙午の女性は「気性が激しい」「婚家先を不幸にする」と言われて、結婚を忌避されてきた。それゆえ、丙午の娘を持つ親の嘆きは深かったのだが、そんな彼らにとってこの縁組は朗報となる。江戸に生きた庶民女性の証言を記した篠田鉱造の『幕末明治 女百話』にも、こんな記録が残されている。
「和宮様の御降嫁で、将軍さまも和宮さまも、丙午同士でいらっしったもんですから、下々の丙午娘はみんな婚姻が出来て、ソレはそれは、親御さん達は大喜びでした。(中略)丙午の迷信が打開されたのは、面白いようでした」
 この「丙午」という視点を抜きにして、彼女を語ることはできないと私は思う。
 和宮は弘化三(一八四六)年・・・