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社会・文化

獣医師不足という「虚構」

「加計学園」が狙う利権の深層

2017年6月号

 新緑が美しいパリ。五月二十一日の昼下がりに、モンソー公園北側の豪邸に約八百人の紳士淑女が吸い込まれていく。国際獣疫事務局(OIE)の年次総会に参加するため世界百八十カ国・地域から集まった「Vet.」(ヴェット)たちだ。
 畜産業の歴史が浅い日本では想像できないかもしれないが、英語で獣医師(ヴェテリナリアン)を意味するVet.は、Dr.(ドクター)と同格か、それ以上の社会的な地位が認められている。学識・人格ともに優れたエリートとして尊敬されるのだ。
 口蹄疫など家畜の伝染病は、各国経済に破滅的な大打撃を与える。陸続きの欧州では各国が協調しなくては家畜伝染病を防げない。外交大国のフランスで獣医学が発展したのは偶然ではない。
 ヴェットの本拠であるOIEは、一九二四年に二十八カ国で発足した歴史ある国際機関だ。「世界保健機関(WHO)の家畜版」と説明されることが多いが、陸上動物だけでなく、魚類から蜂などの昆虫まで情報を収集・分析する。世界貿易機関(WTO)が発足した九五年以降は、食肉などの衛生基準の策定や家畜伝染病の発生・清浄化判定などの面で、通商上の役割が強ま・・・