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経済

「ぼったくり」LPガス業界の悪辣

全国二千四百万世帯を「喰い物」に

2017年6月号公開



 四月から都市ガス小売り全面自由化がスタートした。昨年から始まった電力小売り全面自由化と併せて、電力・ガス会社による独占支配は名目上、すべて撤廃されたことになる。エネルギー市場は消費者主権の時代になったと役所は嘯くが、それはある都合の悪い部分から目をそらしているにすぎない。電力・都市ガスの全面自由化により、光熱費削減の恩恵にあずかった家庭がある一方、知らぬうちに金銭をむしり取られている消費者もいる。後者は、極端にいえば、ざっと二千四百万世帯に上る可能性がある。これはLPガス(プロパンガスとも呼ぶ)を使用している世帯の数だ。LPガス会社は全国で二万社を超えるといわれるが、彼らに対する規制は皆無に等しい。LPガス会社が電力・都市ガス全面自由化に参入するケースは多いが、そちらで格安料金をうたう一方、その原資を既存のLPガスの客から巻き上げていることはあまり知られていない。

法律がないのでがんがん値上げ

 LPガスとは、液化石油ガスの略称であり、プロパンとブタンを主成分とした家庭用燃料を意味する。原油精製時や化学製品の生産時につくられ、海外から八割を輸入、残りを国内で生産している。国内の一次基地から海上・陸上輸送で二次基地に運ばれ、ボンベに充塡されるまでが供給の流れだ。
 都市圏の住人にはなじみがないが、それは都市ガスが供給されているからだ。都市ガスはメタンを主成分としており、ほとんどをLNG(液化天然ガス)として海外から輸入している。都市ガスは地中の導管で家庭に送られるため、ボンベはない。主要都市圏が都市ガス主流のため、LPガスはマイノリティーと誤解されがちだが、使用する世帯数はほぼ互角だ。
 都市ガスと遜色ない供給世帯数にもかかわらず、LPガスは〝古くさいエネルギー〟とみなされ、日の目を見ることがなかった。そんなLP業界に巡ってきた千載一遇のチャンスが電力・都市ガス全面自由化だ。電力事業では、ミツウロコグループなど東証一部上場の有名どころから、近畿一円を中心に事業展開する伊丹産業グループなどが参入。日本瓦斯(ニチガス)は東京電力の代理店の形で参入し、業界の話題をさらった。都市ガス事業でも電力ほど数は多くないものの、ニチガスなど数社のLPガス会社が参入した。
 特に首都圏では、東電が弱腰のせいもあり、LPガス会社の存在が目立っている。首都圏の新規参入者という点では、東電以外すべてLPガス会社だ。各社ともに、既存都市ガス会社の東京ガスより安い価格をアピールし、顧客をじわじわと奪い始めている。経済産業省・資源エネルギー庁の集計によると、首都圏のスイッチング申込件数は二万七千百七十六件(五月十九日時点)に達した。
 このLPガス会社の戦略に不快感をあらわにするのは、首都圏の既存都市ガス各社だ。「LPガス会社は都市ガスを安くする代わりに、LPガスでがんがん値上げしている」。ある都市ガス会社の役員はこう耳打ちする。一部では、客の気づかぬうちに、料金水準が倍になっているケースもあるという。これでは、LPガスの客が、都市ガスの客の値下げ分を補塡しているのと変わりがない。
 ちなみに、LPガスは電力や都市ガスと異なり、既に自由化されていた領域だ。値上げが嫌なら事業者を代えればよいと自由化推進論者は言うが、ことはそう簡単ではない。LPガス会社には独特の商習慣があり、容易に契約を変更できない仕組みを導入している。
 有名なものが〝無償配管〟だ。「設備回りはタダでやります」。集合住宅を建設する際、LPガス会社はこう言ってオーナーに近づく。オーナーは初期費用を抑えられるので、都市ガスではなくLPガスを採用する。LPガス会社はその後、入居者に法外なLPガス料金を請求し、儲けを出す。入居者が都市ガスに代えたいと言っても、オーナーとの契約を盾に断るというのが一連の流れだ。
 LPガス会社同士でも、消費者の利益を無視した営業活動が横行している。消費者団体の関係者によると、「今より安くなると言われて契約を替えたところ、確かに最初の一カ月は安くなった。しかし、二カ月目から大幅に値上げされ、結局、元の契約よりも高くなった。そういうケースが常態化している」という。
 電気料金や都市ガス料金は、値上げに対する公的なチェック機能があり、こうした事業スキームは採用することができない。なぜLPガスでできるのかといえば、電力や都市ガスのような事業法がないからだ。LPガスを対象にした法律は「液石法」(液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律)があるが、法の建て付けは事業者の規制ではなく、安全の確保が主眼となっている。
 役所も自由化領域ということを言い訳にしてLPガスの所業を放置してきた。LPガスが暴利をむさぼっているというのは、小売料金をみても明らかだ。電気料金と都市ガス料金は原則的に、毎月の料金水準の変動を燃料費の変動範囲に抑えている。LPガスも同様に値上げの際は燃料費の高騰を理由にすることが多いが、これはかなりの眉唾だ。

社会的弱者が損をする「自由化」

 全国LPガス協会が公表している「LPガスの価格の推移(二〇一七年三月分)」によると、最新の家庭用小売価格(モニター価格)は十立方メートル当たり七千五百六十六円だ。燃料費の変動が反映されている卸売価格(同)は二千四百五十円なので、差し引き五千円超が小売り会社の懐に入っている計算になる。
「実は卸売価格は下がってきている。それなのに、それを小売り価格に反映させず、客から高い料金を取り続けている」と話すのは、LPガス元売り関係者だ。それは価格推移にも如実に表れている。五年前の二〇一二年は小売り価格と卸売り価格の差が約四千六百円、十年前の〇七年は三千九百円程度にすぎなかった。これを見る限り、LPガス会社が燃料費高騰を理由に高額な料金を請求してくるのは、真っ赤な噓ということになる。
 こうした無法者が電力・都市ガス事業に紛れ込むことに、消費者団体は早くから警鐘を鳴らしていた。しかし、新規参入者の頭数をそろえたい役所がそれを無視し、結果はLPガス会社のやりたい放題になった。ニチガスは「もう東ガスからガスを買えなくなる」と虚偽説明を繰り返していたが、LPガス業界の日頃の行いをみればさもありなんといったところだ。
 LPガス会社は今後も都市ガスの廉価販売を仕掛ける裏で、LPガスの客にその原資を肩代わりさせていくことだろう。自由化の芽を摘みたくない役所が、LPガス会社を咎めることもない。「LPガスを使っている家庭は地方で、お年寄りも多い。そういう弱い立場の人たちが損をする自由化であっていいのか」。大手都市ガス会社幹部の口癖も、もはやお為ごかしには聞こえなくなってきた。

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