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連載

皇室の風 109

婚約取材の煉獄Ⅲ
岩井克己

2017年9月号

 交渉決裂と受け止めざるをえない最後通告があったのは平成十六年十一月十二日だった。
 紀宮清子内親王と黒田慶樹の婚約内定をつかんだものの、発表が新潟県中越地震の被災者に配慮して延期となり、思い余って「交渉」に踏み切った。「十一月中旬までは待ちます」と告げていたのは、実は大安の同月十九日発表を密かに期待したためだ。
 しかし「避難所の全員が仮設住宅などに落ち着く十二月まで発表できない」との皇室側のスタンスは揺るがなかった。オクや黒田サイドから「なぜ朝日は待ってくれないのか」との不満も漏れてきた。
 あたかも煉獄のような懊悩の末、一方的に通告したのが十一月十日。
「紀宮殿下、両陛下のお気持ちを重く受け止め、当分見送ります」
 誰にも相談せず独断だった。相手側は暫く沈黙した。
 そして二日後に「やはり十二月下旬に各社横並びで」とダメ押しの“ゼロ回答”があったのである。十月二十一日、内定情報をつかんでから二十三日間が費やされていた。
 ほぼ全貌をつかんだという最強のカードを手中にしながら、あの時になぜ・・・