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社会・文化

《日本のサンクチュアリ》防衛大学校

幹部養成機関の特異性と弊害

2017年12月号

 西に富士の秀峰、東に房総半島を遠望する景勝の丘。京浜急行の支線にある馬堀海岸駅から坂道を上りきること二十分余り、眼下の東京湾から潮風が吹き寄せてくると、もう目の前が防衛大学校だ。その地名から「小原台」と別称される。学生が卒業式で帽子を宙に投げて巣立つ姿は、毎年春の風物詩として馴染み深い。注目される訳は、幹部自衛官を養成する特異な機関という位置付けからだけでなく、自衛隊の最高指揮官である首相が訓示するからだ。防大卒業生が「税金泥棒」と罵倒された過去とは裏腹に、今や自衛隊は海外派遣に加え、大災害での奔走で脚光を浴びる時代になった。だが一方で、任官を拒否する者も絶えず、防大卒の「純血主義」による自衛隊組織に内在するなれ合いや硬直化を指摘する声も少なくない。閉ざされた軍事大学の実像に迫る。
「お※▽◇す!」。小原台は早朝から、聞き取りにくい奇声に包まれる。「おざっす!」とも「おはっす!」とも聞こえる。正確には「おはようございます」。防大生は全員が寮生活を送り、午前六時きっかりに起床ラッパの合図で一斉に起きる。毛布とシーツを折り目正しく四つ折りにして整頓すると、上半身裸(女子学生はT・・・