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連載

美の艶話 第29話

物思う動物のように
齊藤 貴子

2018年5月号

 束の間の逢瀬。久しぶりの再会の弁ももどかしく、互いの着ているものを剥ぎ取るように慌ただしく抱き合った後、そのままほんの少し眠りに落ちる。
 まるで小さな獣のようだとは思うけれど、激しく体を絡め合った後、隣で寝息を立て始めた愛しい人を起こすことなく、ただ静かに寄り添いながら意識を手放してゆくのは、時に行為そのものより満たされる。そうして相手の首や耳のあたりの甘い匂いを嗅ぎながら、一時の快楽の向こう側の無意識の領域まで一緒に行けたなら、たとえ禁じられた関係であっても「幸福」と表現して然るべき。十九世紀フランスの画家、ギュスターヴ・クールベの《眠る女たち》を見るたびそう思う。
 ヌードに慣れきっている現代の目から見ても、本作はなかなかセンセーショナル。それもそのはず。ベッドの上、一糸纏わぬあられもない姿で、互いに脚を絡ませ眠る二人の人物……。これは明らかに「事後」、しかも男女ではなく女性同士のそれを描いたものであって、創作の源となった画家の友人シャルル・ボードレールの次の詩行からも、同性愛の「現場」であることは疑いようがない。
「物・・・