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連載

をんな千一夜 第21話

「鹿鳴館の名花」の無念
石井 妙子

2018年12月号

《大山捨松》

 明治百五十年だとか、薩長にゆかりある方々は意気軒高に打ち騒いでいる。が、時おりお情けなのだろうか、唐突に東北出身者を持ち上げることがある。
 十月の所信表明演説でも安倍首相は「南部藩出身の原敬」を誉めそやしたが、今年一月二十二日の施政方針演説でも会津藩士、山川健次郎の名前をあげて讃えた。
「百五十年前、明治という時代が始まったその瞬間を、山川健次郎は政府軍と戦う白虎隊の一員として迎えました。しかし、明治政府は国の未来のために、彼の能力を活かし、活躍のチャンスを開きました」
 東京帝国大学総長となった山川は、学生寮を作って貧しい家庭の若者に学問の道を開き、女性の博士号取得も後押しした。この例に倣って全ての日本人の活躍を推進したい―、と。
 これを聞き、私は思った。安倍総理は山川健次郎の実妹が誰であるのか知らないのだろう。彼女がどれだけ男社会に泣き、活躍の機会を奪われて涙を飲んだか、を。
 山川健次郎の実妹は、大山捨松である。幼名は(山川)咲子。山川家は会津藩家老の家柄・・・