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経済

金融庁とSBI証券の「醜い蜜月」

株価操作「大甘処分」の深層

2024年2月号公開

 金融庁は1月12日、ネット証券最大手であるSBI証券に対する行政処分に動いた。同社が主幹事を務める、新規株式公開(IPO)銘柄を巡る意図的な価格つり上げという不正行為が理由だ。株式市場の品質を傷つける悪質な行為である。しかし、証券業界から処分内容の甘さに疑問が投げかけられている。SBIグループには近年、多数の金融庁OBが天下っている。処分の甘さに関係していないのか。厳しい視線が向けられている。
 証券取引等監視委員会は昨年12月15日、金融庁に行政処分の勧告を行った。今回の処分はそれを受けての措置である。同委員会は約一年間を費やす立ち入り検査をSBI証券に実施していた。この経緯についてはすでに主要メディアが伝えているが、本誌が2022年12月号で詳報した東海財務局による大手金融商品仲介業者に対する処分が発端だった。
 東海財務局が22年夏までに検査し、報告命令を発出したCSアセット社への行政処分である。同財務局が指摘した不正行為は複数にのぼるが、そのひとつが「新規上場株式の下値買い支えが目的と知りながら買付注文の媒介を行う行為」である。つまりSBI証券の不正行為の片棒を担いだものだった。

「形だけ」の業務停止

 証券取引等監視委員会はその後、SBI証券に対する立ち入り検査に着手した。その過程において、CSアセット社以外の仲介業者二社と、SBI証券の海外現地法人を通じた同様の株価買い支えの事実を把握。事件は広がりを見せた。立ち入り検査が約一年という長期にわたったことについて、金融庁関係者は「SBI側が激しく抵抗したから」と漏らす。
 IPO業務を担当する大手証券幹部は「新規公開案件を巡って、主幹事証券は上場初値が公募価格を下回らないように努力する。それと不正な株価下支え行為を分ける一線はグレーゾーンに近い」と説明する。SBI証券が抵抗した背景もここにあると言える。しかし、この幹部は「いまは、株価操作に近いような、これほど露骨な買い支えはどこも行っていない」とも、ややあきれ顔で話す。それをSBI証券は複数のIPO案件で実行していたわけだ。相当悪質である。
 金融庁は「IPO銘柄に関し、勧誘を伴う上場日における売買の受託業務の停止」とする行政処分を出した。だが、その期間はわずか五営業日だった。業務停止となった五営業日の間、SBI証券には新規公開の予定はなかった。要するに、業務停止は「形だけ」(大手証券関係者)にすぎなかった。「過去の例からすれば、新規案件の獲得業務は三カ月間停止といった行政処分が相応しいはずだ。実に軽かった」(同前)と言う。
 今回の事案は、SBI証券自身が主幹事を務めるIPO案件が公募価格割れの上場初値になりかねなかった。そのため公募価格割れ回避のために意図的な株価下支えを企てた。そして同社と契約している金融商品仲介業者三社に対して、実際の株価下支えを目的とした買付注文を依頼した。それを三社が実行したという構図である。
 金融商品仲介業者三社は共犯的な役割を担った。ところが、証券取引等監視委員会が12月に発出した行政処分勧告の対象はSBI証券のみだった。金融庁が行政処分を下した先もSBI証券一社にとどまった。この事案の発端がCSアセット社という金融商品仲介業者の違反行為に対する東海財務局による行政処分から始まっているにもかかわらず、である。
 それだけに金融庁の発表以後、証券業界からは疑問の声が上がった。外資系証券の幹部は「明らかな相場操縦であり重罪だ。だが、処分は『相場を変動等させることにより実勢を反映しない作為的なもの』という、いわば軽犯罪的な処分で終わった。これは理解しがたい」と首を傾げる。
 ある金融商品仲介業者は同業界の実情をこう説明する。「SBI証券は従来、自身が主幹事となったIPOを所属仲介業者に提供する唯一の会社だ。仲介業者のなかにはそのIPOの配分にありつくためにSBI証券と契約しているところもある」。
 IPOは値上がり期待が大きいという伝統的な発想が根強く残っているからこその話である。実際、東海財務局の処分を受けたCSアセット社は「短期的で利益を得やすいIPOの優先配分を受けたいという思いが法令を遵守する思いより優先した」と同財務局に説明していた。法令違反とは思っていても、SBI証券からの株価下支えの依頼を謝絶すれば、次のIPOの配分にありつけないという恐れがあったというわけである。
 SBI証券は業務を伸ばし、ネット専業の革新的ビジネスの旗手として「IPO取扱銘柄数ナンバーワンの証券会社」を自負してきた経緯がある。ところが、SBI証券がやってきたのは所属仲介業者をフル活用して買い支えるという、じつに古典的なやり口だった。今回の金融庁による行政処分は20年12月から21年9月までの間に新規上場した三銘柄を巡る違反行為だが、過去にもSBI関連銘柄を巡っては大きな話題になったケースがある。

金融当局OBの大量天下り

 18年9月27日、SBIグループ生保会社、SBIインシュアランスグループ株式上場の際のことだ。グループ会社のため、SBI証券は主幹事を務めなかったが、当時、SBI証券に所属する二十余の仲介業者を総動員して、SBIインシュアランスの上場初値を買い支えたという。
 SBIインシュアランスの公募価格は2,160円に設定されていたが、「当時、上場直前の段階では公募割れ必至という情勢だった」(前出大手証券関係者)。しかし、9月27日の上場初値は公募価格にピタリと一致する2,160円。その後、株価は下落し続け、現在までの五年強にわたって、一度も公募価格、つまり上場初値を超えていない。
 SBIグループは近年、金融庁OBを大量に採用し続けたことで注目されてきた。証券取引等監視委員会や関東財務局からも天下り人材を招き入れている。株価が低空飛行を続けるSBIインシュアランスの社長は関東財務局長を務めた元キャリア官僚、乙部辰良氏である。今回の株価買い支えに加担した三社の仲介業者の一つはSBIマネープラザ。その名の通り、SBIグループの中核企業であり、ここでも天下り官僚が要職に就いている。
 金融庁はSBI証券に対して「経営陣を含む責任の所在の明確化」を求めたが、本当に厳しい責任追及が行われるのか。「独立した中立的な立場」を守れない仲介業者への厳格な処分も含めて、曖昧な着地では、金融庁の権威は地に堕ちる。由々しき事態である。


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