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経済

みずほ幹部「強盗事件」の深刻余波

勢い増した旧第一勧銀「撲滅作戦」

2016年3月号公開

 情報が行内を駆け巡った一月二十九日の朝、その男はしきりに「独り小さくガッツポーズを繰り返していた」(周辺筋)という。

 石井哲―。旧日本興業銀行(IBJ)出身。みずほフィナンシャルグループ(FG)執行役常務兼みずほ銀行(BK)常務執行役員で、人事部門のトップである人事グループ長だ。グループ「CHRO」なる肩書も与えられている。

 チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー。つまり「最高人事責任者」というわけだ。自らも経営に参画し、経営戦略に沿った形で人材戦略や人材マネジメントを展開していく役割で、評価や任用・採用などを行うだけの単なる「人事部長」ではない。それほどに佐藤康博FG社長兼CEO(最高経営責任者)の信任も厚いということになる。

 その石井氏が今年に入ってから、子飼いの部下や親しい同僚などに宣言し、血道を上げているのが「DKB撲滅作戦」(FG関係者)だ。部長級などの枢要ポストから旧第一勧業銀行(DKB)出身者を一掃するとともに、昇格・昇級対象者も大幅に削減する。周囲には「今年中にやり遂げる」などと嘯いているという。

石井氏は「体位豊富な悪代官」

 そんな最中に「事件」は起こった。一月二十八日夜、旧DKB出身のBK幹部があろうことか「強盗容疑」で警視庁高井戸署に逮捕されてしまったのだ。小山田泰幸・公共法人部長(=当時)。自治体や地方公共団体などとの金融取引を取り仕切る実務部隊のトップだ。東大法学部を卒業後、一九八七年に旧DKBに入行。旧行出身のBK関係者によると、同期では出世頭の一人。しかも「常に先頭を走る、文句なしのエリートバンカーだった」。

 それがどこで道を踏み外したのか。この日、小山田部長は酒に酔ってタクシーで帰宅。杉並区内の自宅前で降りる際に料金をめぐって運転手と口論になり、運転手の足を蹴ったり、胸を殴ったりしたうえ、約七千円の料金を踏み倒して自宅に逃げ込んだ。無論、運転手は泣き寝入りなどしまい。ただちに警察に通報され、高井戸署員が自宅に駆けつけてその場で「御用」となってしまった。

 ひたすら「撲滅作戦」に勤しむ石井氏が、旧DKB出身エリート行員の引き起こしたこの事件に小躍りしないハズはなかろう。といって、部下や周囲の目もある中、あからさまに喜悦を表に出すわけにもいくまい。その結果、嚙み締める思いで感情をぐっと抑え込んだうえでの精一杯の発露が、冒頭の「小さなガッツポーズ」だったというわけだ。

 事情通によると石井氏はその後、心許せる部下だけになった場で「これで完全にDKBの息の根を止められる」とほくそ笑んだとか。いまやグループの旧DKB出身幹部らは戦々恐々といった有り様だ。

 それにしても佐藤CEOは自ら好んで「ONEみずほ」のキャッチコピーを口にしながら何故、石井氏のような旧行意識に凝り固まった男を重用するのか。

「佐藤さんが重用しているというより、石井さんが希代のジジ殺し。完全にノセられている」。こう話すのは旧富士銀行出身のFG幹部だ。

 石井氏は一橋大卒。旧三行の統合でみずほグループが発足してからは旧みずほコーポレート銀行(CB)の人事企画畑などを歩んできた。当時、CB頭取だった佐藤氏に「巧みに取り入った」(事情通)とされているのが国際管理部次長時代。たちまち佐藤氏のお気に入りとなり、二〇一一年には「超出世コース」(FG関係者)といわれている秘書室長に抜擢されたという。

 暴力団などの反社会的勢力に対する融資問題で金融庁の怒りを買い、一四年六月にFGが委員会設置会社への移行を余儀なくされた際には「社外取締役らの御守役」(同前)ともいわれる、新設の取締役会室長に就任。ここでさらにジジ殺しに磨きがかかったか、前出のFG幹部によると、いまでは「佐藤さんばかりでなく、取締役会議長の大田さん(=弘子、政策研究大学院大学教授)や川村さん(=隆、日立製作所相談役)までがすっかり籠絡されてしまっている」らしい。

「変幻自在のトリックバンカー」「体位豊富な悪代官」―これが石井氏の下で仕えた経験のある行員らがつけた同氏のニックネームだ。「アタマが切れて機を見るに敏。Aという上司がシロといえばそれに従い、Bという上司がクロといえばそれにも従う。とにかく上に対しては何でもアリ」。BK中堅行員の一人もこう言って、その融通無碍ぶりに感嘆するやら、呆れ返るやら。

「カンパニー制導入」の深謀

 ではそんな石井氏が何故、DKB潰しに躍起となるのか。「きっかけや動機はやはり一三年七月のCBとBKの合併にある」というのが、FG関係者らの見立てだ。

 みずほが発足した当初、旧行行員らの構成比率はDKB三対富士三対IBJ一だったとされている。旧IBJ出身者は数で圧倒的に劣後していたことになる。ただホールセールや投資銀行業務を専門に手掛けるCBという受け皿が存在していれば、それでも構わなかった。旧DKBや旧富士の行員の多くは、リテール業務主体で、人手のかかるBKに振り向けられ、CBの中では旧IBJ出身者が幅をきかせていられたからだ。ところが、それが一つになってしまったのである。

 こうなると石井氏ら旧IBJ行員からみれば「まさに多勢に無勢」(関係者)。仮に旧DKBと旧富士に手を握られて旧IBJ外しに走られたら、手も足も出なくなる。それを防ぐには旧DKBか旧富士か、どちらかを早いうちに叩き潰しておく必要があろう。そして狙いを定めたのが、旧DKBだったというわけだ。前述の反社会的勢力への融資や昨年春に容疑者が逮捕された、本店を舞台とした投資詐欺事件など旧DKBやその行員にまつわる不祥事、不正事件が相次ぎ、相対的にグループ内での立場を低下させていたからだ。敵の弱い所を徹底的に攻め立てるのは、戦を勝利に導くための常道だろう。その意味で今回の強盗事件は石井氏にとっては、敵にとどめを刺す、格好の武器を手に入れたような気分だったに違いない。

 FG関係者によると、現在、佐藤―石井ラインでは金融庁が打ち出している持株会社の機能強化策、いわゆる「総合金融グループに関する規制改革」に便乗する形で組織を再編、グループの実権を一手に掌握するためのある画策が進められているという。FGへのカンパニー制の導入で、近々発表される予定だ。FGに銀行、証券、信託など業態別の社内カンパニーを設置、そのトップとなるカンパニー長に強大な管理・監督権限を与えるもので、実施されれば「BK頭取やみずほ信託銀行、みずほ証券といった傘下企業のトップよりも、カンパニー長の方がえらくなる」(FG幹部)ともいわれている。

 各社トップの存在を有名無実化したうえで、カンパニー長を旧IBJ出身者らで固める腹では―というのが事情通らのヨミだ。


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