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連載

皇室の風 第119話

「十三年は若返られます」
岩井 克己

2018年7月号

 朝鮮半島情勢が流動化し始めた。皇室取材の事始めが皇太子夫妻(現天皇、皇后)の韓国訪問問題だったのを思い出す。
 昭和六十(一九八五)年十二月、筆者は韓国・蔚山にいた。ソウルの現代グループ本社で総帥の鄭周永に日本観をインタビュー。中東の土木建設事業に進出した際の武勇伝に敬意を表したら、上機嫌の鄭にグループの現業基地・蔚山に招待されたのだ。便宜供与は受けられない、と秘書に断りを入れたが、真っ青な顔で「行ってもらわないと私のクビが飛ぶ」と懇願されたのだった。
 現代自動車、現代重工業、現代建設といった傘下企業幹部七、八人が顔をそろえ昼食会を開いてくれた。鄭会長の招集らしく、昨今の日本の政治経済情勢などについて意見を訊かれた。
 なかに、図抜けて日本語が上手く、丁重で温顔の痩身の人物がいて、心通う会話を交わした記憶が残る。何年も賀状をくれた。
 差出人名は李明博。大阪生まれで、朝鮮戦争で姉弟を失い、赤貧のなかから鄭に見出され現代建設社長に上りつめていたことは後から知った。まして第十七代大統領になるとは思いもよらなかった。
 鄭も李も・・・