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連載

Book Reviewing Globe 412

紅の影が広がる豪州の大学

2018年9月号

 中国のお家芸とも称すべき外交は、相手国の引退した政治指導者を取り込み、「チャイナ・クラブ」を作らせることである。
 オーストラリアの場合、労働党政権を率いたボブ・ホーク(一九八三〜九一年)とポール・キーティング(九一〜九六年)の二人がその「チャイナ・クラブ」の中核となった。二人は、中国発展銀行の国際助言委員会のメンバーにそれぞれ迎え入れられ、長らく「中国の友人」として振る舞った。引退した政治指導者が一番、寂しい思いをするのは「注目を浴びなくなる」ことである。かつて外相を務めたギャレス・エバンスはそうした心理をrelevance deprivation syndrome(誰も相手にしてくれなくなることを怖れる症候群)と冗談めかして名づけている。
 オーストラリアは現職の政治家も中国に取り込まれている。
 ダストヤリ事件というスキャンダルがこのほどオーストラリアを揺るがせた。サム・ダストヤリは若手有望株の労働党上院議員だった。二〇一四年、日本が実効支配する尖閣諸島をも含むADIZ(防空識別圏)を中国が設定しようとしていることにオーストラリアは反対するべきでは・・・