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連載

新・不養生のすすめ 第20話

オプジーボ「礼賛」の危うさ
大西 睦子

2018年11月号

 今年のノーベル医学生理学賞は、日米で分け合う形となったが、受け止め方は両国で大きく異なった。京都大学の本庶佑博士への賞賛の嵐が吹いた日本に対し、米テキサス大学のジェームズ・アリソン博士への米国の報道はせいぜい受賞発表の当日にとどまり、実にあっさりしたものであった。
 ノーベル賞受賞決定のニュース後、お祝いムードに包まれた日本では、病院の窓口や患者団体に「(本庶氏の研究から生まれた薬剤である)『オプジーボ』を使いたい」、「手術よりオプジーボが治るのでは」というような問い合わせが殺到している。その一方、米国民の反応はもっと冷静だ。というのも、近年抗がん剤の薬価は異常に高騰し、高価な免疫チェックポイント阻害剤は、多くの国民が利用できないからだ。
 二〇一五年の米国臨床腫瘍学会では、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのレオナルド・サルツ医師から悲痛な発表があった。「五年前、進行性の悪性黒色腫は治療不可能と考えられていたが、オプジーボの併用で、無増悪生存期間(ある治療を開始してから疾患の悪化がなく生存する期間)が十一・四カ月も延びたことは、本当に驚く。臨床医として・・・