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連載

Book Reviewing Globe 416

米中対決時代のインドの「憂悶」

2019年1月号

 米中対決時代、インドはどう動くのか。中国の覇権攻勢に対抗するため、米国と実質的な同盟を組むのか。米国と友好関係を保ちつつ、それをテコに中国とも安定した関係を維持するのか。米中対決が一転、米中宥和に向かい、インドは梯子を外されるのか。二十一世紀のインド・太平洋地政学の最大のテーマはその点に尽きるだろう。
 インドの最大の挫折は一九六二年の中印国境紛争の敗北だ。それはその後、長くトラウマとなり、いまもなお中国に対する恐怖感を払拭できない。次の挫折は、冷戦時代、後ろ盾だったソ連の崩壊である。インドにとって戦後は「失われた時代」だった。九二年、ナラシマ・ラオ政権は、そこから脱出しようと「東方政策(Look East Policy=LEP)」を打ち出した。それは徐々に進んだ。最初の十年間は、ASEAN志向で、貿易と投資を中心とした。その後、東南アジアから日本、韓国、オーストラリアへと東方の地理的対象が広がった。しかも、東アジア諸国との関係も経済から安全保障へとシフトしていった。この間、インドは九六年のASEAN地域フォーラム(ARF)、二〇〇五年の東アジアサミット(EAS)にそれぞれ・・・