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連載

皇室の風 第128話

自ら引いた一線
岩井 克己

2019年4月号

 現皇太子夫妻の結婚式を取材した平成五年から二十五年余り、ずっと抱え続けてきた疑問があった。最近になってようやくそれが氷解した。
 あの「結婚の儀」で、宮中三殿の内陣の神前で夫妻が結婚を誓った神事の経費について、宮内庁の「表」である長官官房は宮廷費(公費)で賄えると判断し「奥」に勧めたが、なぜか「奥」は断ったと聞いた。
 供え物の神饌、幣物など金額は大きくないが、宗教儀式の中核をなすだけに、憲法の政教分離に配慮して現天皇、皇后の結婚の儀などでは内廷費(私費)で賄われていた。宮内庁が一転して公費支出を勧めたのは、平成二年の大嘗祭への国費支出を認めた内閣法制局の方針転換を受けて検討した結果だった。しかし、「やはりこれまで通り私的な内廷費でまかないたい」との返答だったという。「意外なお答え」と宮内庁幹部は当惑顔だった。
 今もその理由は詳らかでない。「薄皮一枚でも憲法の政教分離のけじめは残すべきだ」との思いからなのか、それとも「皇太子妃を迎える天皇家の儀式」といった「聖域」意識のようなものだったのか―筆者も受け止めに迷い、疑問が宙に浮いたままだったのである。{b・・・