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大聖堂再建で団結できないフランス

巨額寄付金が炙り出す「格差と分断」

2019年5月号

 パリのノートルダム大聖堂の大火災が、フランス国内で新たな政争に燃え移っている。
 高級ブランド「LVMH」や化粧品「ロレアル」創業家など、フランスの大企業や富豪が再建資金への巨額寄付を競う中で、「大富豪の節税対策だ」「貧困者対策にも寄付をすべきだ」という非難が早くも沸き起こった。
 大聖堂火災前から、エマニュエル・マクロン大統領は、抗議運動「黄色いベスト」に手を焼いていた。大聖堂火災という国家的悲劇でも、一時的休戦さえ得られない。フランス史と共に歩んだ大聖堂は今、第五共和政の曲がり角を目撃している。

寄進者は「善男善女」にあらず

 黄色いベスト関連のSNSは、火災直後こそ国家財産の喪失を嘆く声であふれた。だが、寄付金のニュースが伝えられると、論調は富裕層への怒りへと変わった。ある左派系作家が「そんなにヴィクトル・ユゴー(『ノートルダム・ド・パリ』)がお好みなら、『レ・ミゼラブル』にも目を向けてくれよ」と発信し、喝采を浴びた。
 火災から一夜明けると、左派には遠慮がなくなった。フ・・・