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連載

日本の科学アラカルト 106

新たな電気デバイス材料に 「グラフェン研究」の可能性

2019年6月号

 炭素からできた物質といえば人類が古くから利用してきた黒鉛や炭、ダイヤモンドなどが思い浮かぶ。科学分野では、ナノサイズの管、「カーボンナノチューブ(CNT)」や、サッカーボール形で知られる「フラーレン」が有名だろう。
 そして、炭素原子の六角形構造が二次元方向、つまり平面に広がった物質を「グラフェン」と呼ぶ。CNTに関する研究が始まったのは一九五〇年代にまで遡る。九一年に発見されたCNT製造方法は、日本人研究者によるものだ。サッカーボール形のC60フラーレンの存在は古くから立証されていたが、実際に発見されたのは一九八五年のことだった。発見に寄与した三人の化学者は後にノーベル賞を受賞している。
 一方で単層、つまり重なっていないグラフェンを初めて分離することに成功したのは今世紀に入ってから。二〇〇四年に英国の化学者が、黒鉛に粘着テープを貼り付けて剥がすというシンプルな方法でグラフェンを得ることに成功した。そしてやはり一〇年にノーベル賞を受賞している。
 グラフェンは厚さわずか一ナノメートルと極めて軽くて薄いシートでありながら、ダイヤモンドよりも硬いという特性・・・